バスルーム

　

　　　　　終わったはずの恋
　　　　　短くした濡れた髪
　　　　　逢ってはいけない、だけど逢いたい。
　　　　　言い訳を探している
　
　
　

からだ半分ぬるま湯に埋めて水浴する。昼間の浴室は光が溢れていて、いつもそれだけで心細くなる。部屋から流れてくる小さな音楽に耳をすませることで、私は泣かないようにしている。うずくまって、ずっとずっとこうしていたら、からだが溶けるんじゃないだろうかと思う。溶けていけるんじゃないだろうか。このやり場のない言葉も想いも。
　
今年の夏は記録的な暑さだった。木々も疲れ、乾ききっていた。熱で膨張する空間の中でひとり、部屋は無駄なほどに開放的で、声すらもちりぢりになる。私はなおも口を噤み、念入りにからだを洗う。あなたが触れたあらゆるところを、耳のひだから足の指先まで、できるだけ丁寧に撫でていく。
あの溝を渡ることは出来なかった。
私たちは溝の淵に立って手を伸ばしただけで、ついに越えられなかった。
ふたりして溝に堕ちることもできずただ突っ立っているだけに疲れて、私は先に背をむけ、あなたは追いかけられなかった。
時が止まれば良かった。夜を越えられなくても、触れているだけで良かったのに。
掴みきれない泡を洗い流して、熱い湯を浴びる。抱きしめて欲しいと思う。抱きしめてあげたいと思う。
わたしがあなたのためにできたことは、あったんだろうか。
求めることが傷つけることだなんて知らなかった。傷つけ合って、求めていた。