絆

　

　　　　　運命の赤い糸
　　　　　生まれ変わってもきっと愛し合う
　　　　　つなぎとめるもの
　
　
　
　

　私たちは失ってばかりいる。
　でもあんまり大したものではないから、失ってもそれほど気にしない。だいたいは昨日の記憶とか、ことづけだとか、今さっきしてたこと、だ。時々会話が噛み合わない。お互いに不思議な顔をするけれど、その不思議な顔をふたりで見合わせて笑ったら、なんだか会話が噛み合わないことなんてどうでもよくなる。
　物は片づけるようにしている。元に戻すのではなくて、きちんと揃えるのがいい。大きさとか、高さとか。そうすると在るべき処に在るような気がする。本とか香水とか茶碗とか、写真とか指輪とか服とか、きれいに並んでいる。
　出かけるときはふたりで出る。ちょっと前に、ひとりで出かけたら迷子だと言われた。いつでも動いていない方は迷子じゃなくて、動いている方は迷子だ。だから手を繋いで出かける。ふたりで出かければ迷子じゃない。手を繋いでいると、ずっと昔のことを思い出す。あまりに昔で、前世のような気さえする。もしかしたら来世のことかもしれない。そうやって手を繋いでふたりでじっとしているのも悪くないと思う。
　一日はそれほど長くない。別々のことをしているうちに日が沈む。私たちはまるで別れを惜しむように眠りに入る。たぶん今なら、この人に死なれても私は生きていけると思いながら、とろとろと眠りに入る。