ひこうき雲

　

　　　　　空を切り裂いていく白い雲
　　　　　涼しい風が吹き抜けていく
　　　　　空に漂う
　　　　　ありふれた日常
　
　
　

何処にでも行けるって思いながらも何処にも行かないのは、結局ここが好きなんだからだと思う。いろいろ探し回ってようやくたどり着いたのが此処、と言えるほど好きではなくて、居ても立ってもいられないほど嫌いというわけでもない、場所。少し忙しくて、少し退屈なところ。少しだけ愛があって、少しだけ淋しいところ。
まだどこかに素晴らしい世界があるような気がするのは、きっと隣の芝生が青いせいなんだろう。この場所を選んで、ここにいるということ。これ以上もこれ以下も、私は選べないような気がする。魚が生きていくには最適な水温があるように、鳥が春と冬を求めて海を渡るように、私は此処にいるのだと思う。
時折、本当に欲しいものを手に入れられるだろうかという穴に堕ち込む。
例えば定時にホームに入ってくる電車、毎日掃除してある境内、夜を知らせる合歓の木の庭、そういう単調な繰り返しの中で、生殺しのように生きていたあの場所ではないのだという再確認をするために、私は空を見る。