常磐線藤代付近

　
　
　
泣く直前の、目が乾いていく感覚は嫌いだ。
なぜこんなにもいま泣きたいのかさっきから考えているのにわからない。
まばたきをしたら涙が溢れてきそうで、ずっと中吊り広告を凝視したままだった。
くだらないスキャンダルに満ちていた。
ほんとうにくだらないと思った。
　
夜の電車に乗り合わせた人はみな同じ顔をする。
あまり、楽しそうでもない。
辛そうでもないけれど、何かを諦めていると思った。
　
なぜこんなに、泣きたくてしかたないのだろうか。
淋しくも切なくも苦しくも辛くもない。
いつもの一日だった。
時間を金にかえるための、何もない一日だった。
波瀾万丈なんて望んでない。
　
いいわけかな、とも思ってみた。
７割の満足が得られればそれは幸せというのかな、と思った。
　
泣く理由なんていらないのかも。
でもそう思ってまばたきをしても、涙は出てこなかった。
泣きたいのに。
　
目を閉じる。
少しだけ潤う。でも、頭がぎゅっとしめつけられる感じが取れない。
ひどく息苦しくて無理矢理深呼吸してみる。
見開いた目で後ろの車両を見た。
揺られて引きずられていく。
　
ふ、と電車の中が闇に溶けた。
いつもの、数秒の停電。
涙が出た。
何がなんだかわからなくて、零れていく涙をとめられなかった。
星を隠す黒い雲が見える。
このまま、静寂の夜が続けばいい、と思った。