辱

　
　
　
　そのワンルームは採光が悪くて、そのせいでほんのりと薄暗い。昼間に来ても、玄関を閉めた瞬間に夕暮れになったような気がして、ひどく切なくなる。男の部屋の匂いだ、と思った。嘘を吐いてここにくることはもう慣れてしまったけれど、不徳な娘に育ってごめんなさい、と心の中で謝っておいた。
　玄関まで鍵を開けに出迎えてくれると、私が靴を脱ぐ前にキスをしようとするものだから、それはいつまでも挨拶のキスにならない。熔かすような生々しいくちづけ。互いの舌を絡めるときに、そこに永遠のようなものを感じる。そうして永遠でないことが哀しい。
　あなたのそんなにもやるせない顔つき。触れてくる冷たいてのひら。軽く耳を咬まれるともうそこで立てない。壁に躯を預けて立ったまましたこともある。ベッドまで行くのが惜しくて。いつも私は欲しいものばかりで、それが得られるなら何だってしたい。すべてを差し出したっていい。この手も肌も髪の先まで。でも差し出せるほどのものじゃない気がして、急に自分が、ぜんぶ恥ずかしくなってしまう。きっと物欲しそうな眼だけしてると思うと余計に恥ずかしい。そう思ってるから、何も言えない。
　欲しいっていえば？
　そんな簡単に、言わないでよ
　欲しくないの？
　・・ん っ
　欲しいって言え
　・・・ほしい、です
　
　のみこまれてしまう。思い出して、無意識に自分の唇に触れてしまう。私の弱さに簡単につけこむあなたが、きっと本当に、欲しくて欲しくてたまらない。焦らすようにゆっくりと、ゆっくりと入ってくる、この全身の痺れは、そのせいなんだと思う。
　最初に挿れるときの顔が、すごく感じてて可愛い
　そんな甘い告白をはじめて聞いて、顔を赤らめてしまっていた。幼子のよう。そういう顔をしていることがとても恥ずかしい。お願い、見ないで、撮らないで。どうして？可愛いよ。回しっぱなしのビデオの音が、やけに大きく聞こえて、私を急き立てる。構わずに舐められる首筋。
　恥ずかしい、とても恥ずかしいの
　もっと、　恥ずかしがってよ
　永遠が何かなんてわからないけれど、きっとこの瞬間は永遠だって思った。恍惚という言葉がこれ以外に当てはまりそうにない。抱かれながらなんども好きだと言われて、これ以上に強く人を愛することなどないと思った。このすべての感覚を覚えていよう。そうして一生それを隠して、思い出すたびに恍惚としていよう。あなたの手元に私の影が残るならどうかそれを捨てないで。
　
　鎖骨のあたりで、くちづけの紅い痕が残っているような気だけしている。これでもう二度と会えないと知ってた。私に触れるために綺麗に爪を切ってたあなたの指が、今もとてもいとしいと思いながら、今日、最後の電話を切った。