人物紹介

弓長一樹（ゆみながかずき）：主人公。弓長家の次男。１４歳。

英知（ひでとも）：父。パチンコ店「ベガス」の社長。

美樹（みき）：母。別居中。
「母親の美樹は家を出て一年間は永福町にアパートを借りて棲んでいたが、その後引っ越して世田谷の奥沢に棲み、今年で五年になる。ウィリアムズ病の権威と言われている医者に治らないと告げられた美樹はありとあらゆるツテとコネを使って有名な鍼灸医や気功師のもとに幸樹を連れていった末に、知人によく当たると紹介された占い師のところへ通うようになった。そして占い師に、『先祖が金に係わる大罪を犯した祟りだ。清貧を規範にして生きれば治る』と言われてからというもの、（中略）神経質に金を嫌悪するようにな」（180）った。「幸樹だけを連れて家を出」（181）たが、「幸樹につきっきりでパートにも出ることもできなかった美樹は、一ヵ月で生活に困り、幸樹を家の前まで送り、門のなかにはいるのを見届けてから走り去った。それから月に一度の割合で幸樹とは逢っていたが、最近はめったに逢うことがなかった。」（181）「美樹は、釈迦像に抱かれている幸樹とは拝むことで充分にこころを通い合わせることができると信じていた」（181-182）。

幸樹（こうき）：弓長家の長男。一樹の兄。１８歳。先天的な病気である「ウィリアムズ病」の障害がある。
「あちこちの病院をたらいまわしにされたあげく最後に診てもらった大学病院で、血圧と血液中のカルシウムのレベルが高いというカルシウム代謝の遺伝的な欠陥を指摘されたが、医者にはカルシウム代謝の検査を定期的に受ける以外にはなんの処方もないと告げられた。そして最終的な診断は、『成長の遅延です。注意深く見守りましょう』というものだった」（93）。「五歳になってもひとりでは外も歩けなかったが、虫や国の名を『もういい』というまで挙げつづけることができる驚異的な暗記力を発揮」（94）した。「幸樹の病名を知らない金本かなもとは精薄だろうと考えていたがそれでも、人間から利己心をとり除き社交性を与えればこの子のようになるにちがいない、と『妖精顔貌症候群』とも呼ばれるウィリアムズ病特有の無垢さを正確に受け止めていた。」（89）

美歩（みほ）：弓長家の長女。一樹の姉。１６歳。

サダ爺・シゲ婆：黄金町の老夫婦。
話の舞台である黄金町で「金閣」という中華料理店を開いている。
シゲ婆は病気で寝込んでおり、サダ爺が千尋とふたりで店を営む。

千尋（ちひろ）：金閣でサダ爺、シゲ婆と暮らしている。
「ある日少年が金閣を訪れると、千尋はまるで何年もまえからそうしていたかのように老人の横に立って皿を洗っていた。」（22）



金本（かなもと）：
「金本は若いころは港湾労働者として働き、三十年前に事故に遭ってからだを思うように使えなくなり黄金町に流れてきたと語っているが、少年は信じているわけではなく、暴力団の幹部だと思っていた。」（17）
「金本は少年が子どもだったころ、お守り役の宝球殿の従業員を脅すようにして追い払い、少年の遊び相手をした。」（44）「ばったり逢ってもあいさつを交わすだけで別れるようになったのは、つい何年か前からだった。」（44）

響子（きょうこ）：１７歳。幼馴染みだったが、父親の自殺ののち孤児院に入る。
「中学を卒業と同時に施設を出て、いまは林の紹介で桜木町のレストランでウエイトレスをしている」（51）。
「少年とつきあって」（300）いる。
「少年は父親には内緒で家政婦兼兄のお守り役の島村が休みをとるときは響子にきてもらっていた。」（51）

林（はやし）：ベガスの支配人。
「支配人の林は資本こそ出さなかったものの少年の祖父の英彰ひであきとふたりで宝球殿を興し、英彰が経営を、林が店内運営を分担して二人三脚でやってきた。」（36）（注：宝球殿はベガスの前身）